オール・オン・フォーの上部構造の3つの特徴は、(1)ワンピース(一体型)(3)スクリュー(ネジ)固定、(3)歯茎付きの上部構造であることです。
通常のインプラント治療の場合は、8〜14本のインプラントを歯と同じ方向に埋め込み、前歯と奥歯両側の3つのパーツに分けて上部構造を作ります。
一方、オール・オン・フォーでは、傾斜埋入を含む4本のインプラントのみで上部構造を支えているため、上部構造は一体化されたワンピース構造になります。
左:通常のインプラント治療では多くのインプラントが埋入される。
右:オール・オン・フォーでは片顎4本のインプラントが埋入される。
オール・オン・フォーに限らないのですが、すべての歯を失った場合など多数の歯の欠損を治療する場合は、スクリュー(ネジ)固定の上部構造になります。これは、歯科医師がスクリューを回すことで上部構造を容易に取り外せ、点検や洗浄が終わった後に、正確に元に戻すことができるようにするためです。
スクリュー固定(インプラント・レベル)
- 骨内に埋め込まれたインプラントに、クラウン(上部構造)がスクリューで固定されます。
- インプラントは生涯を目標として人体に埋め込まれるため、インプラントの点検が必要になる場合があります。
- スクリュー固定では、メンテナンスの際にスクリューを逆回転することで、クラウンを容易に除去できます。
- 点検の容易さという点で、スクリュー固定はセメント固定よりも優れています。
- 一方、セメント固定の場合は接着の加減が調節できないため、クラウンの撤去は困難なことがあります。
スクリュー固定(角度補正アバットメント・レベル)
骨内に埋め込まれたインプラントに角度補正アバットメントを介在させ、ブリッジ(上部構造)をスクリュー固定させています。
歯を失った部分が奥歯から前歯までのように長くなると、歯の並びは湾曲しているため、インプラントの埋め込み方向を一定にすることができません。このため、インプラントに角度補正アバットメントを連結することにより、埋め込み角度を補正し、スクリュー固定を可能にさせています。
歯をたくさん失っている場合は、必ず定期的な点検が必要になります。このため、スクリュー固定の上部構造が必須となりますが、それを角度補正アバットメントが可能にしています。
オール・オン・フォーの上部構造は、歯だけでなく失った歯槽骨まで人工歯肉で回復させることができます。歯茎付き上部構造は、設計自由度を増し、強度を持たせることもできます。
左:人工歯だけの上部構造の場合、最小6本のインプラントが必要です。また、人工歯だけの3ピース上部構造の場合は、通常8本以上のインプラントが必要で骨移植を伴います。
右:歯肉付きの上部構造の場合、最小4本のインプラントで上部構造の取り付けが可能です。歯茎つきにすることで、骨の移植が不要になり、歯の部分の設計自由度を増し、ブリッジに強度を持たせることができます。
また、壊れない金属フレームを作ることが最も重要です。強固な金属フレームで4つのインプラントを連結し、力を分散させることが重要なのです。フレームが壊れてしまうと、傾斜インプラント部で骨結合が失われ、治療は失敗します。上部構造の破折を防ぐことは、手術直後はもちろんのこと、最終上部構造が入った後でも重要なのです。
チタンは、軽くて、生体親和性が非常に良いにもかかわらず、値段が安く、価格が安定しており、オール・オン・フォー上部構造に理想的な金属です。CAD/CAMシステムは、歯科技工士が作ったフレーム情報をコンピュータに読み込ませた後、工業用ロボットがフレームを作るため、人為的なエラーが起こりにくいという利点もあります。
左、中央:CAD/CAMによるチタンフレームの試適(お口の中での合わせ)
右:工業用ロボットによるチタンCAD/CAMフレームの製作
仮歯の破折がオール・オン・フォー失敗の原因になります。しかし、チタンCAD/CAMフレームを用いた最終ブリッジのフレームは破折しません。
さて、これまでのインプラント上部構造は、鋳造した部品同士を、溶接してつなぎ合わせることでフレームを作っていました。鋳造は、金属を溶かして鋳型に流し込む方法のため、オール・オン・フォーのような長いフレームでは金属が端から端まで流れ込みにくい場合もあり、歯科技工士の技術力に結果が左右されます。
4つのパーツに分けて作れば良いのですが、それらを作業が困難な口の中で固定する必要があります。パーツの溶接はレーザー溶接という新しい方法になっていますが、レーザーが金属内部のどこまで当たっているか不明です。鋳造では金合金などの貴金属を使用するのですが、貴金属は値段が高価で変動する割に重く、生体親和性がチタンに劣るという欠点があります。
CAD/CAM法と鋳造法によるオール・オン・フォー上部構造の違い
CAD/CAM | 鋳造、溶接 | |
材料 | チタン | 貴金属 |
材料の値段 | 安価で安定している | 高価で変動する |
材料の生体親和性 | 非常に良い | 良い |
歯科技工所 | CAD/CAM用の設備 | 高い鋳造技術 |
誤差補正 | できない | 可能 |
フレームの価格 | 同じくらい | |
型採りの方法 | PIBインデックス法 | 印象コーピングの連結など |
最近のオール・オン・フォー上部構造は、鋳造という技術ではなく、コンピュータを利用したCAD/CAMシステムでフレームが作られるようになってきました。CAD/CAMシステムでは、コンピュータが1枚のチタンのブロックを削りだしてフレームを作ります。継ぎ目が全く無いこのフレームは、フレーム破折の心配がないので、ワンピースのオール・オン・フォー上部構造に最適です。
しかし、CAD/CAMシステムでは、型採りに誤差があると誤差がそのままフレームに反映されてしまいます。そのため、型採りに精度が要求されます。それを解決したのがPIBインデックスです。始めの型採りから作った模型でPIBインデックスを作ります。次に、PIBインデックスを利用して、印象コーピングというアバットメントの位置を記録するパーツを固定すれば、正確なインプラントやアバットメントの位置関係を記録した精密レプリカ模型を作ることができるのです。
左:オーダーメイドのトレーによる型採り
中央:PIBインデックスによる印象コーピングの連結
右:精密レプリカ模型
CAD/CAMシステムでは、精密な行程で型採りが行われる。
後で述べる製作の流れにそって最終上部構造ができあがるまで、1〜2ヶ月かかります。最終上部構造ができあがった後も、精密レプリカ模型と仮歯は永久にクリニックに保存されています。
チタンフレームは破折しませんが、上部構造のプラスチックの部品は破折することがあります。修理の時、歯が無くては困りますので、バックアップとして仮歯を保存しているのです。万が一の時、噛み合わせまでを記録した模型を保存しておけば、新しい上部構造をもう一つ作ることもできます。
インプラント治療を受けた全ての患者さまの模型が保存されています。
最終上部構造製作の流れ(完成まで1〜2ヶ月かかります)
- 1はじめの型採りをします
技工所でPIBインデックスと個人トレー(オーダーメイドの型採り用トレー)を作ります。1〜2週間後に予約します。
- 2PIBインデックスと個人トレーを使用した精密な型採りをします
精密レプリカ模型を作ります。数日後に予約します。
- 3仮歯を利用して、噛み合わせを採ります。
インプラント専門の歯科技工士がお顔とお口の状態や噛みあわせをチェックします。
CAD/CAM専門の工場でチタンフレームを作ります。2〜3週間後に予約します。
- 4フレームのスクリューテストと歯の並びの合わせ
フレームと歯の並びがよければ、完成させます。1〜2週間後に予約します。
※スクリューテスト:チタンフレームの適合が良くない時は、スクリュー(ネジ)が途中で止まってしまいます。きちんと全てのスクリューが最後まで入っていくかテストすることです。
- 5上部構造完成
- 6点検調整を1ヶ月後に行います
治療後のメンテナンス
自宅で、普通の歯磨きと、ジェット水流による口腔洗浄器などで清掃を行います。3〜6ヶ月に1度の目安で通院し、インプラント上部構造の点検、洗浄を行います。
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